TBSメディア総合研究所

No36．「ポストモダンの第2段階とモダン」

2005.11.1

　このメディア・ノートの趣旨から言えば、TBSと楽天のことについて、それも「メディア論」的に書かなければいけないのだが、これは批評の問題ではなく(あるいは批評であるがゆえに)、戦術の問題だ。だから、その論理とタイミングは相当に吟味されなければならない。ただ、今の段階で一つだけいえることは、この問題は株式による企業支配の問題でもあるが、それと同時に（というよりそれ以前に）メディア事業についての経営理念の問題であるということだ。理念で商売が出来るかという声もあるだろうが、近代の起業家たちは商売を通じて「理念」を実現することからスタートしている。現在では、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)が問われることがしばしばあるが、今回の問題もそこに踏み込んで語られなければならないと思うのだ。
･･･というわけで、このテーマは次の機会ということにしたい。

　さて、前回「国家とは何か」の感想を書いたが、その線の延長で「ポストモダンの思想的根拠/9.11.と管理社会」(岡本裕一朗・ナカニシヤ出版)を読んだ。ポストモダン論が賑やかだった頃、僕の関心はモダンが喪失したものの方にあったこともあって、「差異」や「脱構築」を巡る議論や、あるいはマスメディアの世界で言えば「小衆分衆論」、「多品種少量生産論」からは遠いところにいた。漸くポストモダンを考える思想家たちに近づいたのは、冷戦構造崩壊後の90年代に入ってからで、ポストモダンのブームは既に去っていた。その辺りのことは、また今度書いてみたい。
　岡本さんは、現在の状況を「ポストモダンの第2段階」としている。つまり、第1段階の差異のポストモダンから管理のポストモダンへの移行ということだ。「『自由管理社会』では、自由のみが強調されて、管理は不可視なっている。しかし、管理の実態を理解することなしには、自由も危ないと考えなければならない」。ここから、フーコーやドゥルーズを軸にネオリベラリズムやリベラルデモクラシーを読み解き、権力の思想構造を管理の観点から分析し、最後に「ポスト人間化」という論点を提出している。ポストモダン状況に上手く噛めなかった当方としては、格好の解説兼論点整理をしていただいて助かった。どうやら、僕はポストモダンの第2段階から付き合いを始めたようだ。
　敢えて簡単にまとめれば、「差異の実現は自由の容認であり、『あるルール』さえ前提にしていればお構い無しなのだ。但し、自由は常に監視(=権力の偏在)の下に置かれている。『あるルール』に抵触すれば、排除の力学が働く。人々は、この仕組みに自ら同意している」というわけだ。なるほどね。
　しかし、もう一つの問題はモダンが積み残した問題、喪失したテーマをポストモダンが解決したわけではないということだ。ナショナリティーや都市と農村、南北問題、そして技術と環境、等など。それは、もう一度モダン=近代の課題として扱われなければいけない。「ポスト人間」とはそういうことだろう。その意味で、ポストモダンはモダンの何段階目かの状況でもある。
　メディアにひきつけていうならば、モダンの典型はテレビジョンであり、ポストモダンはインターネットによって展開されている。しかし、ポストモダンはモダンと断絶することで成立しているのではなく、モダンの取り込みという弁証法（懐かしい言葉だが、正にそうなのだ）的構造だとすれば、ネットがテレビに置き換わるのではなく、それぞれのメディアの出自の根拠であるテーマを追求し続けることに、夫々の存在理由があるといえるだろう。その相互関係の構築こそ「融合」というものであって、そう考えるとメディアの思想状況においても「入れ子構造」が成立するのである。

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