TBSメディア総合研究所

No62．「気になる人たち」(1)

2006.12.1

　
　テレビジョンは一つの全体である。あらゆることに関わるのがテレビジョンだとすれば、あらゆることがテレビジョンに関係する。技術も、市場も、経営も、政治も、哲学も、風俗も、自然も、そして人間そのものも、全てにテレビは関わる。だから、こうしたジャンルについて感心を持つことは、テレビジョンを更に知ることにつながる。
　本棚を時々眺めていて、アアこういう人たちに色んなことを教えられ刺戟を受けてきたんだと思うことがある。そして、その人が本を出したときに、ともかく読んで見ようかと思わせる人たちがいる。なかには、この人が書評でほめているのなら間違いはないだろうという人もいる。その理由を考えることが批評というものだろうが、それは次の機会においておくとして、気になる人の名前だけでも記しておこう。順番は若い順で言ってみよう。

萱野稔人　1970
　市場主義全盛の世の中で、「国家とは何か」で「『小さく』見える国家こそ、最も抑圧的」という問題を提起している。この視点と次の東浩紀が指摘する、デジタル時代=データ時代における規制と管理の問題がどう向き合うのか興味深い。

東　浩紀　1971
　後出の大澤正幸との対談批評「自由を考える・9.11以後の現代思想」を読んで、この若い世代の思想家に刺戟された。「動物化するポストモダン」も面白かった。おそらく、情報のデータ化の意味を、批評するのではなく思想として考えるのは、彼らの仕事だろう。「規制権力」と「管理権力」という認識はなるほどと思わせる。先行世代と感覚が違う。デビュー作「存在論的、郵便的」はまだ読んでいない。

北田暁大　1971
　東浩紀編著「波状言論S改」で知った。まとまった著作は読んでいないが、彼の書評の筆捌きには感心している。こんなに若くして、成熟を感じさせて良いんだろうか。「嗤う日本のナショナリズム-『2ちゃんねる』に見るアイロニズムとロマン主義」が話題を呼んだという。

香山リカ　1960
　「〈私〉の愛国心」、「テレビの罠」などで大衆の心理状況から政治の秘密を突いている。理論的分析の盲点をすくい取るという点で新鮮だ。

小熊英二　1962
　「単一民族神話の起源〈日本人の自画像の系譜〉」「民主と愛国-戦後日本のナショナリズムと公共性」など、圧倒的なボリュームの著作を短期間に発表したことに驚いた。実証的な調査能力、整理力、筆力から次は何が生まれるのか、それとも暫く充電中なのか。

大澤正幸　1957
　前出「自由とは何か」と「文明の内なる衝突[テロ以後の内なる世界を考える]」を読んだ。東との対話で感じるのは、発想や論理において、オーソドックスな系譜とのつながりが強いということだ。戦後体制の解体後の思想課題を提起し続けている。

田中優子　1952
　「江戸学」なるものは、彼女によって世の注目を浴びたとされているが、「江戸から明治を見る」という視座は素敵だ。近代の問い直しが求められている今、現在から近代という過去を見るのではなく、大過去=現在としての江戸から未来としての近代への移行と屈折を見つめることで、見えてくるものがあるはずだ。ついでに、「樋口一葉『いやだ!』といふ」のように、この人の文章表現力は相当なものだ。

テッサ・モーリス・スズキ　1951
　「全ての人間は、外国人である」(「デモクラシーの冒険」姜　尚中との連続対談)
　この一言を言える人は、それだけで素晴らしい。もう一つ、「無関心な第三者意識の蔓延は、テレビから発信された無意識の保守性が、最大の原因かもしれません」

中沢新一　1950
　コメントする必要もないだろう。「緑の資本論」、「カイエソバーシュ」I～V、「芸術人類学」などなど。新人類と呼ばれた世代の代表格のこの人の優しさと激しさは、変わらぬ魅力だ。「対称性」という概念で、人間の意識/無意識を人類の歴史の層として教えてくれた。

姜　尚中　1950
　何を書いても発言しても、常に切々としたものを感じさせる。出自にも関わるのであろうが、初期の論文「マックスウェーバーと近代」を読んで、研究者としての情熱に感動した。学と現実を往還することの困難さが切実さを感じさせるのだろう。

内田　樹　1950
　最近までこの人のことは知らなかった。平川克美との対論「東京ファイティングキッズ」で、こんなに軽々とした語り口で思想を語れるのは稀有な才能だと驚嘆した。「いきなりはじめる浄土真宗」「はじめたばかりの浄土真宗」。武道にも詳しい。知らなかったのはこちらの責任だが、今まで何をしていた人なのだろう、と思ってしまった。

　今回の最後は、内田樹の一言。
　「知的創造物にかかわる権利が作者に排他的に帰属する場合よりも『パプリックドメイン』(略)の方がそれが人類にもたらす利益は大きいだろうと考える。･･･むろん『できるだけ多くの人に作品を享受してもらうこと』と『できるだけ長期にわたって作者の権利を保護すると』のどちらを優先させるかについての一般解は存在しない。しかし、一般解のない困難な問題について考え抜くことは、しばしば一般解にたどりつくより以上の知的利益を私たちにもたらすだろう。
(毎日新聞「水脈」06.10.8.下線引用者)

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