TBSメディア総合研究所

No66．「NHKのことなど」

2007.1.15

　年末にNHKのBSドキュメンタリー「証言による現代史」を見た。午後から夜遅くまで、一日に「ダッカ空港ハイジャック事件」「大韓航空機爆破事件」「ソ連のアフガン撤退の真相」「ソ連邦崩壊(前後篇)」の5企画(タイトルに記憶違いがあるかもしれない)6時間見るのに少し疲れた(マニラの人質事件とよど号ハイジャック事件の二つはパスした)。どれも面白かった。ダッカ空港におけるクーデター部隊との衝突、大韓航空機犯人逮捕に至るアンマンの現地日本外交官の行動、ゴルバチョフは優れた政治家だったが乱世の政治行動者ではなかった、などなど、知らなかったことや思い起こすことが沢山あり、それらのことが現在の国際社会にどう影響しているかをアレコレと考えた。やっぱりNHKは必要だ･･･といのは少々乱暴だが本当のところだ。民放では何故こうした企画は出来ないのか、という問はもちろん成立する。だが、ここではそれは措くとしよう。それよりも、別の感想がある。
　NHKにおいて、こうした企画の決定プロセス(内容・予算・スケジュール・スタッフ)やあるいは作品評価はどのようなものなのだろう。
　何故そんなことを思うかといえば、番組を見ながらフト思い出したことがあるからだ。僕が制作現場にいた終りの頃、今から25年くらい以前だろうか、ドラマプロデューサーだった沼野芳脩さんが、「民放の番組予算の仕組みを教えて欲しい」と訪ねて来られたことがあった。その頃の民放の制作予算も相当大雑把なものだったと思うが、番組予算指定書を基に直接費と間接費などの仕組み説明した。沼野さんは克明にメモをとりながら、「NHKも制作構造を近代化しなければならない」ということを何度も言っていた。
　それから暫くして、こちらがメディア企画の仕事をするようになり、BSやHDのことでNHKとは色んな接点が出来た。沼野さんとはHD企画で競いながら親交を深める機会も沢山あった。その頃、ニューメディア推進本部(という組織だったと思う)から「民放では外部スタッフがサブ(副調整室)でも仕事をしていると思うけど、実態を教えて欲しい」という話があり、現場を見て頂いたこともあった。NHKエンタプライズが設立されたのはその直ぐ後だったと思う。NHKは、優れた人材と豊富な経営資源を活用して、その後更に発展した。
　だがいま、NHKは混迷の中にいる。しかし、それは「NHKがNHKであるということはどういうことなのか」を考え抜く絶好の機会なのだ。「証言による現代史」は一つの事例であるが、こうした企画がNHKの再建?課題として経営的にどう位置付けられているか(つまり「NHKらしい良い番組だ」というのではなく)は、本質的な問題なのだと思う。受信料システムの見直しやコーポレートガバナンスの検討はもちろん避けて通れない。しかし、何よりも重要なのは、「NHKはどういう放送局になりたいのか」ということを経営も職員も考えることだろう。そのためには、「放送とはNHKのことだ」という、しばしばこれまで見られた思考(これは意識的にあるいは無意識的に極めて強く浸透しているのだ)を離れ、多様化するメディアの中でNHKのポジションを自ら選択することだ。自らを変えることは、他者との関係を変えることでもある。そして、それは他者からの提起によるのではなく、自ら考えることでしか見えてこない。だが、主体的であるということは、自己を客観視することから始まる。いうまでもなく、こうしたことはそのまま民放の課題でもある。つまり、放送は総体として今そのような状況にあるということだ。
　年末の一日、NHK-BSを見ながらアレコレと思い浮かんだことなので、上手く整理されていないこともあるが、これまでのNHKとの幾つかのことを思い起こしつつ、NHKの、ことを考えて見たのだが、そうすることで放送の現在が見えてくる様に思えた。

　そして、もう一つ。今年頂いた年賀状に「放送の世界は外からは分かりにくい」と書いてあったものがあり、これを書いた方は郵政省で放送行政経験があり、民放にも籍を置いたこともあるのだが、そうした経歴の人でさえこのように書くほど、放送は内向きの論理と構造の世界なのだろうか。とある経済学者にも「放送業界の人のいうことは、正しいものは正しいというトートロジーにしか聞こえない」といわれたことがある。そうだとすれば、やはりそれは問題だ。「自己の客体化」、それが放送の直面しているテーマであり、放送の近未来のための第1ハードルなのである。

　「オウム問題」の渦中で、NHKの親しい友人から厳しくかつ暖かい手紙を頂いたことがある。そのことを思いつつ、今これを書いている。

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