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メディア・ノート
    Maekawa Memo
No82.[アニメーション・フェスティバル/中国・貴陽に行ってきた] 2007.9.15

 中国の貴陽市(貴州)で開かれた「アジア・アニメーション・フェスティバル」に招待された。主催の「中国テレビ芸術家協会」の楊偉光会長とは10年ほどのお付き合いで、その縁で声を掛けて頂いた。中国で行ったこと のある都市は、北京・上海・天津・・香港・長沙で、他のところは知らない。そういう興味もあって出かけることにした。しかし、アニメのプロではないから、何かスピーチをするようにといわれて俄か勉強に追われた。前回レポートした「アキバツアー」もその一環だ。以下は、貴陽でのプレゼン概要である。 講演時間は通訳も入れて30分 。尚、プレゼン用PPTは当然中国語だが、ここではタイトルとエンドタイトルだけ中国語版として雰囲気だけ味わった頂くことにする。翻訳・通訳はTBSメディア総研の原土万里子(劉珂)。

[“アニメ”の文化的意味・産業的可能性]

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 初めて訪れる貴陽市で、初めてお目にかかるクリエータや関係者にお話をする機会を与えられたことに感謝。このフェスティバルを開催された貴陽市と関係者に敬意を表する。

[日本のアニメ産業の規模]
 日本のアニメーション産業は、着実に拡大傾向にある。2004年の劇場映画、テレビ番組、ビデオソフトを合計したアニメ市場は約2300億円 (前年比120%増)である(グラフ1)。特に、劇場で封切られたアニメ作品は急激な伸びで、2004年には封切映画全体(650本)の1/3がアニメであり、その内7割(220本中158本)が日本作品となっている。これらの作品は、上映後テレビで放送され、またビデオソフトとして販売されている(グラフ2)。


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 こうしたアニメ産業が成長している背景には、広範なキャラクター市場が存在している。キャラクター市場は、玩具、家庭用品、アパレル、出版、アクセサリー、文具、など非常に裾野が広い。アニメキャラクターはこうした市場に投入されることで大きな波及効果をもたらしている。


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 海外でも、日本のアニメ作品は注目を集めている。特に、ポケモン(赤表示)は興行的にも成功している。また作品性では宮崎作品(青表示)が高い評価を受けている。


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[アニメの文化的背景]
 こうした日本におけるアニメの成長は、日本の戦後文化・社会の変遷と深い関係にある。
 敗戦後1950〜60年代まで、マンガはサブカルチャーとして人気を集め、特に「サザエさん」(長谷川町子)、「鉄腕アトム」(手塚治虫)は代表的作品である。また、貸し本屋はマンガの普及・流通に大きな役割を果たした。
 1960年から70年は、一方では白土三平の長編「忍者武芸帖」、つげ義春の「ねじ式」など前衛的(註:この言葉は中国語では意味が正確に伝わりにくいので「カウンターカルチャー/対抗的」とした)・アングラ的方向を目指す傾向とともに、他方では「週刊・少年マガジン 」が100万部を突破し、成人向けコミック誌「ビッグコミック」が創刊され、また、少女漫画「ベルサイユのバラ」が人気を集めるなど大衆化が進行した。テレビの特撮番組ウルトラマンやアニメ人気番組「アルプスの少女ハイジ」なども制作された。
 1980年代には、デジタル技術を応用したゲーム産業が登場し、家庭用ゲームに様々なキャラクターが生まれ、マンガやアニメの世界と接近する。そして、現在ではそこにコスプレやフィギュアが加わり、複合的なポップカルチャーを形成し、国際化も進んでいる。
 こうした流れは、戦後の日本の産業構造が製造産業の高度成長/大量消費型からサービス産業/多品種少量生産へ移行していったことを反映するとともに、文化的にはモダンからポストモダンへの変化を象徴している。
 この変化を代表的に示しているのがアキバ(秋葉原)である。無線やラジオのマニア向けの店が集中していた戦後の秋葉原は、その後家電の量販店の登場し、更に廉価なパソコンショップの進出もあり、そしてデジタルコンテンツが普及するとともにポップカルチャーの店が増加し、多様な文化が混在する街である。かつては特定のマニアが集まる場所が、今では社会の「オタク的層」としての若者たちの感覚があふれている。こうした「層」がアニメ文化を広めかつ支えている。


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[アキバの現在]
 ここには、アキバに行って見た人もいると思うが、その風景をほんの少しだけ見ていただきたい。

(会場でアキバの情景ビデオを上映)
秋葉原ガイドマツプ。そして、「オタク」でない人も訪れるので、メイドの格好をしたガイドが案内するツアー企画がある。
様々なキャラクターを扱っている店。一つのボックスを借りて、個人の商品を売る人もいる。
家電を扱う店が並ぶ通り。
裏通りには、コスプレ用衣装の専門店がある。
こちらは、無線やラジオの部品を扱っている一角。
そして、再開発のビル
   
[COFESTA/Japan国際コンテンツフェスティバル]
その秋葉原を中心に、今年の秋(9/19〜)に[COFESTA]というコンテンツのイベントが開催される。
 世界の人々が日本の様々なコンテンツに一度に触れる場と、世界のコンテンツ関係者が交流する場を形成することが目的である。関係業界、政府各省庁、街、などが支援する。
 その企画意図をキーワードとして要約すれば、<あたらしい>=感覚と技術、<おもしろい>=娯楽と情報、<すばらしい>=創造と感動、である。
 これまで個別に開催されていた各種のイベントをこの[COFESTA]に集約する。ゲーム、アニメ、映画、音楽、テレビ番組、秋葉原の都市イベント、などが集中的に開催される。


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[Digicon6]
 ところで、TBSとしてもアニメなどのデジタルコンテンツの人材育成に力を入れている。2000年に“Digicon”プロジェクトを立上げ、2004年には“Digicon6”(6はTBSのテレビチャンネル)と改称、「クリエーターにとって本当に必要なものは何か」「クリエーターが真のサポートは何か」をテーマに、アジア各国のクリエーターに呼びかけて作品を募集し、優秀作の表彰と育成の支援を行っている。2006年には1000作品が応募した。明日、この会場で今年の中国の優秀作品の表彰式を行い、東京で9月29日から、Digicon6+3を開催する。
 来年以後も、この会場にいるクリエーターも是非参加して頂きたい。



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[曽利監督の新作 VEXILLE]
最近のアニメーションは、3DCGが主役だ。TBSにはCG作品の映画「ピンポン」を制作し高い評価を受けた曽利文彦監督がいる。曽利監督の新作3Dライブアニメ<VEXILLE>が8月に公開された。2067年に日本はハイテク鎖国を実施、その10年後の驚くべき状態を描いたものだ。世界でも多くの国で公開が予定されている。是非ご覧頂きたい。

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その予告編とメーキング・ビデオを紹介したい(会場で上映)。


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私はアニメのプロではないが、極めて高いCG技術が駆使されていることは理解できる。皆さんの制作意欲が刺戟されたならとても嬉しいことだ。

 以上で、駆け足で日本のアニメ産業の現状とその文化的背景、アニメを含むポップカルチャーの総合的イベント、TBSのDIGICON6プロジェクトへのお誘い、そして最新の3DCGアニメの紹介をしてきた。この会場の若きクリエーターの皆さんが、何かのヒントになりそこから新しいすぐれた作品を創造することを心から期待する。
 ご清聴に感謝 。



(貴陽、紹興、上海などで思ったことについては次回このノートに書いてみたい。)



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