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メディア・ノート
    Maekawa Memo
No84. [「テレビマンユニオンニュース」と「新・調査情報」] 2007.10.15

 「テレビマンユニオンニュース」の最新号(No595)が、<2007年度サマーゼミナール>「ハゲタカとテムジン〜いまテレビ的なるものを巡って〜」を特集している(NHKプロデューサーの訓覇圭氏、ディレクター大友啓史氏、ドキュメンタリー制作会社テムジンの社長矢島良彰氏、司会テレビマンユニオン今野勉氏)。ドラマ「ハゲタカ」は随分話題になり、BSや地上波でも再放送された。テムジンは「民衆が語る中国・激動の時代〜文化大革命を乗り越えて〜」(4回)を制作し、NHKのBS特集で放送された。どちらもとても興味深く見た(残念ながら後者は全部を見られなかったが)。「テレビマンユニオンニュース」では、それぞれの制作者の思い、企画意図と対象への関わりが、テレビのアクチュアリティーに焦点を合わせる形で語られている。司会の今野勉サンの言葉を借りれば「現在と切り結ばなければいけないテレビが、現在を扱おうとすると非常に難しい」という問題提起があり、「ドラマがドキュメンタリーのように撮られ、ドキュメンタリーが・・・すごいフィックス(固定カメラ)で証言が編集によってつぎつぎと進んでいくと、ドラマチックなんですよね」というとおりに、その表現方法と制作意識が<テレビ的なるもの>の現在を浮かび上がらせている
 一方、半年ほど前の「TBS新・調査情報」(No65) (ココをクリック)は「演出といわゆる『やらせ』を巡って…」を特集している(このメディアノートにアクセスしてくださっている方の中には、「新・調査情報」の読者もいるだろう)。この号は書店からの要望などで増刷したのだが、それだけ反響があったといってよい。その特集の中で是枝裕和氏は、「(局のチェックの大半は)権力に対する気兼ねから来る自己規制」であると指摘し、そうした認識を踏まえた上で「この映像が誰の眼(フィルター)を通して伝えられたものなのか?どのような対象への働きかけが行われたのかを視聴者に『開示』していくという態度の方が今日的だと思う。それがネットとの差異化にもつながるのではないだろうか」(「この捏造から何を学ぶか」)と語っている。ここでは、テレビの現在の危惧すべき状況を抉りつつ、その可能性を見出そうとする強い意思(というよりは直感乃至は執着というべきか)が見られる。これもまた、「いまテレビ的とは何か」を考えるためのプロフェッショナルな提言である。
 二つの特集のテーマ立てやその前提としてのテーマへの編集スタンスの相異によって、一方はドラマとドキュメンタリーの実験的挑戦を通してテレビ的なるものを肯定的に、そして他方はテレビの現状を二重否定的に捉えることでテレビの可能性を、夫々に語っている。その双方を突き合わせあるいはさらに別の視点を探ることが、テレビにとって必要な作業であることはいうまでもない。
 
  映画批評というジャンルは成立しているが、テレビ批評はなかなかジャンルとしては成立しにくい。それは、テレビという存在が作品性よりも現在性に重きを置くことで成立してきたメディアだからであり、また個別番組よりもメディア総体として情報に向き合うからであろう。しかし、表現(=制作や伝達)という行為と批評という行為が緊張関係として成立しない限り、それは文化として自立しているとはいえない。批評が表現の外に成立することもあるが、テレビのような組織活動と不可分なメディアにおいては、インナー型のメディアの存在は貴重である。但し、「TBS新・調査情報」は市販やネット販売も行っているので、いわゆるインナーメディアではない。ここでいうインナー型とは、編集機能が組織内に存在するという意味である。
 批評的視点を組織内部に継続的に機能させることは、いまテレビのために必要なのだ。現場的には批評はしばしば「余計なお世話」に見えるかもしれないが、表現者は自己を客体化してみるという行為を通して他者と向き合うものなのである。「新・調査情報」の存在理由はそこにあるのであって、メディア状況と現場感覚の交点を提示し続けなければならない。
 「テレビマンユニオンニュース」は、インナー型メディアというよりは情報発信性に重きをおいた編集方針だと考えられるが、ここでも<現在>に対して制作者(乃至は制作会社)がどう向き合うかという問題が強く意識しされていることは間違いない。こうした、局や制作会社が自らのスタンスを常に確認することは、批評を成立させるための一つの行為である。こうした行為のなかから、批評者もまた批評の原点を探り、批評の論理を構築し、そして批評の主体性を形成することが問われることになる。それは「いまテレビ的とは何か」のもう一つのテーマであり、そこから局と制作会社の新たな関係を構築する場が生まれるのではないだろうか。



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