TBSメディア総合研究所

No88．「続・総合的法体系/アーミーナイフで食事はしない」

2007.12.15

　12月6日に「通信・放送の総合的法体系に関する研究会」の「報告書」が公表された。「TBS調査情報」*註の次号(NO480)にこれについての原稿を書くことになっていて、締め切りとの関係で「中間取りまとめ」をもとにして書いておき、「報告書」が出てから調整すれば何とかなるだろうと思っていたら、思いのほか大幅に修正されたものか出てきた。この手の検討作業は、中間と最終ではそれほど違わないのが通例だが、今回は違った。それだけ「中間取りまとめ」に対する関係者からのリアクションが強かったか、されとも「中間取りまとめ」が雑だったのだろうか。どうも両方だったように思える。そのせいで、先週末はこちらも修正書き直しに追われた。「報告書」の論点については、「調査情報」お読み頂きたい。

さて、「中間とりまとめ」と「報告書」の相違点は何か。

(1)	全体の論理立てが大分整理された。「報告書」としてのレベルはアップしている。「中間取りまとめ」は粗雑過ぎて、論理を読み取るのに苦労した。
(2)	「レイヤー型規制」という基本は、「あり懇」「政府与党合意」という経緯を受けている以上は「そのための研究会」であるので変わり様がないが、メディアの分類と規制のあり方について「通信も表現行為」という視点を導入することで、「表現の自由」という理念による全体の一貫性が強調されている。
(3)	「表現の自由」「通信の秘密」という二大原則を二項対立的に捉えると身動きできなくなるので、こうした理屈立てになったのだろう。
(4)	さてそうなると、「特別メディアサービス」とされた地上放送と、「オープンメディアコンテンツ」と呼ばれるであろうホームページを同一論理で規制するとはどういうことだろうか。逆から考えれば、例えばホームページの表現の自由と「知る権利」との関係、あるいは放送における違法・有害情報との関係が問われることになる。
(5)	社会的影響力の程度によってメディアを分類しているが、そもそもメディアによって情報の在り方は異なるのである。コンテンツという流通市場型の発想でメディアの類型化と規制にアプローチすることが問題なのだ。
(6)	全てを共通の基準で考えようとすればするほど、当然のことながら抽象の度合いは強まる。実態との乖離は避けられない。
(7)	コンテンツ分野の規制について、「あり懇」のもともとの意図である「経済法」という意味が拡散している。というより、情報規制と経済法が論理的に上手くつながっていない。機に竹を接いでいるのだ。
(8)	「中間とりまとめ」で放送事業者が最も問題にした「コンテンツ適合性審査による免許」についての記述が消えた。パブコメやヒアリングで批判が強かったためだろうか。問題は、では何を基準して免許するかは書いてない。書いてないということは、考え方は変ってないと受け止めるべきだ。その問題点は既に書いた。
(9)	オールＩＰという表現も消えた。さすがに「無理だ」と思ったのだろう。無理の理由は前号に書いた。
(10)	こうした変更について、その理由を書くべきだと思うが、何も書いてない。資料「通信・放送の総合的法体系に関する研究会報告書のポイント」の末尾に、参考として「中間とりまとめからの変更点」がついているが、明記したことや追記したことの記載はあるが、削除したことについては何も記されていない。これは変だ。
(11)	違法情報、有害情報の規制について緩やかな提言になった。活字メディアを含め多方面からの批判に対応するためだろう。しかし、世論調査などでは、生活感覚として、違法・有害情報の規制は受け入れられる傾向もあった。その対応は、一般法とするのかどうか不明である。
(12)	その場合、「表現の自由」と並ぶ「安全・安心」という総合的法体系の理念をどう実体化するのだろうか。「安全・安心」という誰もが否定できない考え方で情報規制をすることの危険性についても、既に書いた。そうであるとしても、総合的法体系として「表現の自由」と「安全・安心」との関係をどう論理化するのかは書かれていない。
(13)	スイス製で有名なアーミーナイフは、ナイフもフォークも栓抜きも缶切りも、中にはツメきり、磁石、レンズなどがついているものもあり、戦場だけではなく屋外で役立つのだが、家庭の食卓で使う人はいないだろう。万能型とはえてしてそういうものであり、単機能の方が優れているのである。

･･･と、ここまで書いたところで「メディアは存在しない」（斎藤環・NTT出版）を読んでいたら「われわれは『万能なツール』には関心がない。有効性とは、常に限定的なものの特性なのである。」というフレーズに出会った。著者の論旨と関係ないが、「なるほど」と納得した。

さて、今年のメディアノートもこれが最後だ。ほんとに1年は早い。読み返してみると、基礎的な知識の不足や論理的思考の未熟さを痛感する。これからそれをリカバーするのは難しいだろうが、少しでもマシなノートにしたいと思っている。
よろしく御願いします。

*註:「新調査情報」は、今年からタイトルの「新」を外すことにした。一度休刊した後で再刊する際に「新」とつけたのだが、既にそれから10年余が経つ。「新」としての役割を果たしたといってよい。来年は「調査情報」刊行50年でもある。改めて「調査情報」として活動していきたい。ナンバーも、もとの「調査情報」の号数からの通算とし、表紙デザインも一新する。
こちらも、よろしく御願いします。

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