TBSメディア総合研究所

No98．
[「村木良彦追悼番組」･･･のことなど]

2008.5.15

「村木良彦追悼番組」を見た("i'sEYE"5月7日(水)19:00.～20:54. BS-i.)。テレビマンユニオンの新入社員研修(?)として行われた)村木さんと萩元さんのロングインタビュー(1995年)と、その二人が制作した番組を基に構成されていて、余剰を排した演出だった。プロデューサーでありディレクターである是枝裕和さんの、 <私>としての視点に徹していたのが良かったのだと思う。なによりも、是枝さん自身のナレーションが、村木さんが(そして萩元さんが)テレビジョンとどう関わったのか、そしてテレビジョンはそれをどう受け止めたのか(つまり、どう受け止めなかったのか)というメッセージと心情を真っ直ぐに伝えていた。テレビの歴史の断面を、その最も本質的なところで切り取って見せた番組だった。それは、是枝さん自身のテレビ論の抑制的な意思表示だったと思う。だから、僕は個人的な様々な思いを、逆にそのまま番組から汲み取ることができたのだった。「テーマよりもモチーフを、モチーフよりはマチエールを」(註)という言葉があるが、そんなことも思い出したりしていた。是枝さんと僕の間の思いの差異があって当たり前だが、その違いがあるザワザワとしたものと同時に、了解しうる違和感として成立したようにと思う。(註:詩人谷川雁の言葉)
　それにしても、最後に「『テレビとは何か』という問が残った」という言葉で締めくくられたのは、「やっぱりそうなんだ」と思ったものだった。

村木さんあるいは萩元さんの言葉の文字表現をもう少し読み込める時間が欲しかった。多少は二人のテレビジョンとの関係を知っている僕でさえそう思ったのだから、そうでない人にとってはチョッと読み取れなかったのではないかという気がした…が、そういう視聴者を想定していなかったとすれば、それはそれで良い。録画ではなく、放送時間に見られたことも、僕にとっては良かった。

　村木さんについては、このメディアノートにも、「調査情報」にも書いたので、それ以上のことはない。ただ、インターネット時代のテレビジョンの可能性を現実化できるのも、それを不可能性としてしか提示できないのも、テレビに関わる者が負うしかないということだけは確かである。そして、それは僕自身も村木さんとの会話で思ったことなのだが、「自分のいる場所がテレビジョンだ」という自己規定に関わる。ハイビジョンもＢＳもデジタル化も、僕なりにテレビジョンとどう関わるかということに尽きる。それはそうだとして、問題はその<方法>なのだ。そのことを是枝さんの番組はあらためて僕に問いかけていた。だから、■以下に書いたメモも、テレビとの関係が問題意識として底流している。
　　この「追悼番組」は30分長いバージョンでTBSでも5月18日(日)に放送されるが、25時20分からという時間では録画するしかなさそうだ。

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* 映画「靖国」が東京で公開されたが、あまりにも短期間の上映だったので、観る機会がなかった。「何よりも観ることだ」といっていたのに、残念だ。
* 「日本語と日本思想-本居宣長･西田幾太郎･三上章･柄谷行人-」(浅利誠・藤原書店)を読んだ。格助詞とか係助詞とか、はたまた繋辞や係り結びという言葉を思い出したり、辞書を開いたりして読んだが、日本語という言語と日本語で考えるということを、こんな風に捉えることも出来るのだということが、とても刺激的だった。戦後民主主義や55年体制が一つの区切りを迎えているといわれているが、そうであればこそ、僕たちがいま何を考えなければならないのかについて、そこには一つの<方法>が提起されている。
* 「近代の超克」に関する本を読み返していると前回書いたが、野口武彦さんが「ドイツ・ロマン派と国学」(「日本思想史入門」ちくまライブラリー・1993)でこう書いている。「学問とは、無邪気であり、真摯である。しかしながら、右の二つの学問(ドイツ・ロマン派と近世国学/引用者)は、民族のメンタリティーの底辺をえぐり、したがってその魂を揺さぶった。ロマン主義とはそういうものである。啓蒙主義・合理主義・普遍主義へのほぼ生理的な嫌悪感。近い将来、ドイツと日本が何をしでかすか知らないが、『ドイツ・ロマン派』と『国学』とはその心理的基盤でかならず復活するであろう。(略)普遍主義への守勢が攻勢に転じたとき、学問方法上、一定の生産性を備えていたロマン主義はいっきょにイデオロギーに陥落する。」
* では、いま「民族のメンタリティー」と「その魂」はどのように成立しているのか、それともしていないのか｡現代政治の論理と情念をテレビは捉えられるのか｡さてしかし、テレビも「無邪気であり、真摯である」か否か、そしていずれにせよその意味を、自ら問うて見るべきだろう。
* そんなことを考えているときに、「思想地図」vol1(NHKブックス)が創刊された。東浩紀・北田尭大の編集で、「特集・日本」が組まれている。思想の不在といわれる状況でで、この企画がどのような役割を果たすのか興味深い。
* 前回、「日本浪漫派批判序説」(橋川文三)について触れたが、書名の「浪漫派」は「浪曼派」でした。訂正します。

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* 民放連研究所が「放送の将来像と放送制度研究会」を設置する。委員長役を努めることになった。出来るだけ幅広の問題意識で臨みたい。

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