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メディア・ノート
    Maekawa Memo
No41.「テレビジョンとインターネットの『入れ子構造』という仮説について」
(未定稿・06年1月版)  2006.1.15

(3) 情報伝達の経済効率
 ここまでは、インターネットとマスメディア(テレビ)のメディア関係の話であって、インフラや端末の共用の話ではない。それでは、「直接公衆が受信することを目的とする無線による送信」(放送法)という放送概念による周波数利用はどうなるのだろうか。別のいい方をすれば、(1) (2)のマスメディア機能が了解されたとしても、周波数利用の観点から現在のテレビ放送の枠組みについてどのような合理性を主張しうるか、ということである。
 放送が同時性同報性という点で優れているのは無線送信の技術的特性によるのであるが、放送サービスの情報伝送の経済効率から見てもそれは明らかだ。無線送信の特性は移動体通信に適しているのだから、家庭への情報伝送は有線(光ファイバ)で良いとする考え方は確かにありうるが、より多数の(100万を目安とするという説があるが)受信者への同時送信についていえば、無線送信が圧倒的に優位である。まして、全国共通の情報を同時的に送信するとすれば、回線コストや中継局経費を考慮しても基本は無線であろう。テレビのような大容量情報を有線ネットワークで伝送しようとすれば、分配系など膨大な設備投資と工事費が発生する。地上民放にとってデジタル投資負担は小さいものではないが、放送対応の通信系インフラの設置と運用のコストはさらに巨大であろう。相当長期的に考えれば、通信放送共用インフラとして、コストの低減は可能かも知れないが、コストの回収=利用者負担の程度を推測すると、いまそれが合理的選択とは思えない。また、無線を直接受信するという簡便性、安定性、情報内容への介在の排除性、対災害性、あるいは国家安全保障機能など、放送を無線で運用するメリットは大きい。「ハード・ソフト一致とは、全ての端末に放送波で伝送するということではない」といったが、伝送効率から見れば無線による放送には相応の根拠がある。しかし、ここまでは放送の論理、「放送の経済学」である。

 さて、「情報の経済学」としてはどうなるか。周波数という有限の「財」をどのように配分すると、(1)産業レベルでどのような経済効果があるか、(2)それにより、どの程度の利益が最も効率的に消費者にもたらされるか、ということであろう。
(註:周波数の有限性は、経済行為の対象として使用目的に合致している範囲という有限性を指すのだろうが、国際的に割り当てられた限度という側面もあろう。後者は、この際考える必要はないと思うので、以下余談。国際的な周波数調整は、国連関連機  関=ITUで行われるが、そこでは第二次世界大戦の勝者の力学が反映しているという。新たな帯域の周波数割り当てが議題になると、各国の主管庁は国家資源の獲得工作のために必死になる。民放もNHKも通信事業者も主管庁の公務員として借り出される。使い方はあとで考える、という訳だ。)

 そうだとすると問題はこうなる。
1. 現在の情報分野の経済活動から見て、周波数資源は適切に配分されているか。
されていないと考えるとすれば、その根拠は何か。
2. 「放送の経済学」の考え方に合理性はあるか。
3. 放送通信分野において、有線と無線の適正な配置という考え方は成立するか。
4. (周波数使用状況において)放送サービスの総量は規制されるべきか。
5. 現行の「電波法‐放送法」体系による放送の枠組みは、変更されるべきか。

もう15年ほど前の話になるから正確な記憶ではないが、通信関係の国際会議のテーマは「世界中で誰もが100m(1kmだったかも知れないが、同じことだ)歩いたら電話をかけられるようにする」というものだったという。その時点(この話を聞いたときよりもう少し以前)で、電話をかけたことがない人が全世界の人口の6割を占めるということを聞いて驚嘆したものだ。誰 もが等しく通信手段 を持つことにも間違いなく公共的意味がある。デジタル技術はそれを可能にしつつある。そうだとすると、周波数を巡り放送と通信の関係を公共性で考えるのか、それとも市場性で判断するか、あるいは別の論点があるのか、ということになるのだろうか。
  こうなると、経済学と言うより政治経済学の問題というべきだろう。これまで、あまりに詰めて考えたことのない分野なので問題設定が粗略ことは承知している。しかし、放送はこうした設問 に明確に答えるか、あるいは設問自体の不成立性を語りきれるか、放送側 もその程度の迫られ方を覚悟したほうが良い。

  (1)(2)と(3)が上手くつながっていないと我ながら思うのだが、しかしこの部分を上手くつないだ人がいればこんなに苦労していないはずだから、誰も未だキチンと考えていないのだろう。

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