TBSメディア総合研究所

No87．「07年末のメディア状況/地デジ・政府・総合的法体系」

2007.12.1

　この2週間、レクチャーやプレゼンテーションが重なった。当然のことながら現在のメディア状況に関わることなので、その要点を記録しておきたい。

[I]　＜トマデジ＞のレク
　トマデジはTBSの関連会社である。データ放送などのデジタルコンテンツの制作やそのシステム構築などを主な業務にしている。テレビ局のベンチャー企業として新規分野の開拓に努め、漸く成長段階に入ったところだ。個人的にも期待している。トマデジは「トマロウ・デジタル」の略である。そのトマデジにメーカーで長年の経験を積んだスタッフが参加した。その機会に、TBSのトマデジメンバーも含め、地デジの現状について話をすることになった。地デジは2011年の完全移行を前に「最終段階に入った」(情通審第4次中間答申)ところであり、様々な検討が進められている。資料には事欠かない。そのレクの基本資料としてこの1枚の図(ココをクリック)をもとにして、全体状況を説明した。
　この図は、上段に横軸としての年代が示されている。右側縦軸に世帯数。図では一部潜ってしまっているが、手描き点線は、カバー世帯数の予測(地上デジタル推進会議のロードマップによる)で、赤はデジタル地上波、緑はケーブルである。現在の予測は上方修正されているはずだ。左側縦の項目は検討対象分野である。このPPTをプレゼンで使用するときは、アニメーションにより順次分野別に検討の場とその意味、そして課題を示しながら説明するのだが、さすがにこのホームページ上ではそうは行かない。だが、この図を仔細に一覧すると、それなりに問題が何処にあるかが見えてくる。一覧図としても意味があることを、この機会に発見した。
　この図を最初に作ったのは2004年3月で、その前年の12月に地デジが三大広域圏でスタートした直後に、民放連・地上デジタル放送特別委員会の北川信委員長(当時テレビ新潟社長、現同社相談役)と「これから何が起こるのだろう」と議論している時に、北川さんが万年筆の手描きで書いたアウトラインをヒントにして作ったものである。その後、節目節目でバージョンアップして今に至っている。僕としてもとても思い入れのある図なのだ。これ以上の図の解説は省略する。ジッと眺めて頂きたい。ついでにいうと、この図を作ることで僕のPPT制作能力は、数段レベルアップした。

[II]　「デジタル放送移行完了のための省庁連絡会議」プレゼン
　この会議も情報通信審議会の第4次中間答申で、デジタル完全移行は政府として取り組むべき、という提言により設置されたものである。地デジを巡る最初の議論から関わっている立場で言えば、「遅すぎるという」のが正直なところであるが、やはり漸くここまで来たというべきなのだろう(構成員などについては、内閣府のHPを参照して頂きたい)。
　この会議で、先日関係者ヒアリングが行われ、NHK、民放連とともに「全国地上デジタル放送推進協議会」の総合推進部会長としてプレゼンテーションを行った。その資料がこれである(ココをクリック･･･(1)の「全国協議会の役割」は割愛)。この資料のポイントは(2)の「地上波テレビのデジタル完全移行=アナログ終了の基本姿勢」である。放送事業者は第一義的に対視聴者と考えるが、その視聴者は同時に「生活者であり消費者、住民、国民」である。この視点からの対応策は、関係業界の努力と政府の取り組みが不可欠だということである。(3)は、(2)の考えかたに添って、課題の事例をまとめたもの。(4)はまとめとして「地上テレビのデジタル完全移行」は「新たな公共サービス圏」を形成するものであり、そのための施策は「混乱の回避」とともに「(想定される)混乱への対応」を視野に入れる必要があること、このため政府としての「本部レベル」の組織が求められる。以上がプレゼンの概要である (NHK、民放連、情通審「地デジ推進検討委員会」主査・慶応大学村井純教授の資料とともに内閣府のHPで公開)。

［III］　東洋大学「情報通信政策フォーラム(ICPF)」
　このフォーラムは、東洋大学経済学部の山田肇教授が主催するもので、前回と今回「通信と放送の総合的法体系」をテーマにした企画だった。前回は、この件の担当である総務省の総合政策課長がプレゼンしている。この「総合的法体系」を巡る議論は、あちこちで行われている。僕自身も慶応大学DMCのシンポジゥムにパネラーとして参加している(メディアノートNo79/2007.8.1.…ココをクリック)。「三田の仇を白山で」というわけではないが、この問題について少しまとめて考えた方が良いと思って山田さんのお誘いに応じることにした。とはいえ、この「総合的法体系」が提起している問題は、法体系を超えたいくつもの論点があり、結局明確に整理しきれないままになってしまい、また反省している。
　プレゼンのポイントは以下のとおりである。(1)レイヤー型規制では、免許を「コンテンツ審査基準」によるとされているが、こうした直接規制(行為規制)は、放送内容への権力介入の仕組みを制度化する。(2)「総合的法体系」は情報通信分野の[ALL IP]化を基本認識としているが、デジタル放送はIPではないのだから、[ALL IP]という認識で放送も含めた規制体系を構想するのは無理がある(文末註)。(3)ネット上の有害情報を「安心・安全」という考え方により一定の規制(ゾーニング)を想定している。これは生活者感覚として受け入れられるだろうが、「安心・安全」という考え方は「100％の完璧性」を求める。したがって、ここでは究極のネット情報管理として、データベース化された情報の捕捉についてどう考えるか、という問題が提起されている。(4)こうした論点は「法体系」を超えて考えるべきであり、「メディア行為とは何か」という視点からの議論が必要である。特に、(1) メディアと国家との距離(緊張関係)を視野に入れること、(2)メディアとメッセージの関係はインフラとコンテンツの関係に置き換えられないこと、などが重要なポイントになる。

　プレゼンテーションでは、全部で24枚のPPT資料を使用した。ここでは、その中から7枚を取り出しておくことにする(ココをクリック)。
　 [「通信・放送の在り方に関する懇談会」報告書の構造]は、この報告書から「総合的法体系」が提起されたという意味で重要だと考えたため、議論の前提として説明した。この図は、以前にこのメディアノートにも掲載したもの(No52/2006.7.1…ココをクリック)を改訂したものである。この図の見方は、右上の赤字の基本認識を前提にした上で、中央の通信(臙脂色)・放送(青色)の両分野にかかわるコンテンツ市場の脆弱性が課題であり、そのためには現在の法規制を組みなおし、インフラ、プラットフォーム、コンテンツの三層構造の規制体系にするべきだ、ということを示している。以下、(1)～(10)の番号にしたがって((1)は通信と放送の両方にある)、この考え方から提起され、「報告書」で指摘された課題を読み取って頂きたい(双六みたいだ)。
　次の[総合法制を考えるための論点(I)]～(III)は、法体系そのものの論点と「メディア論的」論点を示したものだが、まだ整理が十分でない。これは既に述べた。[メディア論と産業政策]は、メディア論とは何かについては色々な考え方があるが、その中から二つの意見を例示した。[メディア行為の変化]は、そうしたメディア論的観点から、メディアの社会的行為の変化と政治の関係を図示したものだが、これはスケッチのようだと思っていただきたい。[「融合」=テレビとインターネットの入れ子構造]は、メディアノートNO41/2006.1.15(ココをクリック)以来何度も使用している。僕の「融合」の基本イメージである。
　プレゼンのあとの質疑では幾つかのご意見を頂いた。「法」がメディアに与える影響をどう評価するか、現在進行しているネットの変化(ニコニコ動画、等)をどう考えるか、ネット上の情報の在り方は「市民運動型」のネット参加者により健全化?すべではないか、レイヤー化した場合とそうでない場合の経済効果、垂直型法体系の持つ意味、地方局の今後、1セグ型サービスと新規モバイルビジネスの規制のあり方、ネットとテレビの総合の役割と関係、などなど。
　それぞれに出来るだけ率直に答えたつもりだが、そうした意見交換をしながら思ったのは、その場の議論とは関係なく、今メディア行為としてテレビとネットは意外に接近しているのだということだった。ワイドショーのような情報提供の形は、例えば「ブログ炎上」（荻上チキ）で分析されているブロガーたちの行為と共通するのであり、そうした情報感覚を日常的に身に付けた世代が、現場でテレビ情報にかかわっているのである。「入れ子構造」は意識の上でも進行中なのだ。

　集中的にレクやプレゼンを引き受けたので少し疲れた。準備に掛けた時間と比較して、有効で意味のある話が出来たのかどうか自信がない。それでも自分の考えの整理と、多少の発見があったことはよかった。特に「総合的法体系」については、何が問題なのかの論点が上手く組み立てられなかったのだが、それが少しは見えたように思う。年内には「最終取りまとめ」だという。しかし、この議論はそれで終りではない。「メディア論で政策を撃つ」のはこれからである。

文末註: 放送もIPもデジタル化された情報を圧縮し、符号化したパケット（小包）にすることは同じである。
IPはパケット化された個々の情報にヘッダー部（宛先の荷札）をつけてIP網伝送する。回線にエラーがある場合は誤りが発生した事を知らせる情報をもとに、双方向機能（Answer Back）を活かして再送などにより誤り訂正を行う（この処理のため、放送と比較すると遅延時間が大きい）。また、通信では伝送路上を様々な情報が交換されているため、回線の状況が可変的であり(パケットごとに違う回線を経由することがある)、それにあわせてパケットのサイズも可変的にして送りだす方式が採られている。
　放送のパケットは一定のサイズ（188ビット）であり、これを一つの「まとまり」として送り出される。これは情報処理時間を短縮して伝送効率を高めるためである。この段階で、「誤り訂正能力」をできるだけ高くして何重にも誤り訂正を施しておく。これは、放送が片方向伝送(Answer Backができない)ため、送出時にエラーが極力少なくなるようにするためである。その後、データ放送や1セグの対応処理をして放送用パケット（TS）を作成して送り出す。

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